London Report
10月15日から5日間、34年ぶり2度目の大相撲ロンドン公演がロイヤル・アルバート・ホールで行われ、生放送で異国のスクリーンに映し出される力士たちの姿は、もはやグラディエーターと呼ぶのが相応しいほど、演出が変わりエンターメント性が加わったSUMOは新鮮で、たくましい姿に感動させられました。さてさてハロウィンも終わり冬時間に突入したロンドンから、最新情報をお送りいたします。
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2019年以来恒例となっている「National Bakery Awards」は、職人気質の小売店から大手卸売業者まで大小様々なカテゴリーから、UKで最も優れたベーカリーを表彰する年次イベント。今年ノミネートされた229のベーカリーの中、ロンドンからは6つの候補が上げられている。その一つ「Fortitude Bakehouse」では、毎朝11時に販売開始となる「ベニエ」をお目当てに行列ができる。このお店の看板商品となっているベニエは、一般的に知られるフランス発祥のシンプルな揚げパンとは異なって、パンの間にたっぷりクリームが挟まっているのが特徴で、季節によって入れ替わる今月のフレーバーは、ベイクドアップル&シナモンクリームにビスケットのかけらがトッピングされたSnickerdoodle Beignet。また、モロッコが大好きだというオーナーDeeさんの想いが伺える、ベルベルオムレツ・サンドやスパイシーなチャラモーラソースが効いたメルゲーズ・ロールをはじめ、モロッカンハニーやオレンジ・フラワー・ウォーターなど、マラケッシュのフレーバーが生かされたペイストリーなど。スイート系の定番チョコレート・クロワッサン・ボムやシナモン・バン、季節のフルーツが乗ったデーニッシュ、惣菜系など合わせて20種ほどから選べる。残念ながらイーティングスペースが設けられておらず、外のベンチか最寄りのラッセルスクエアー広場で召し上がれ。

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「Sir John Soane’s Museum」は、ロンドンの中心部ホルボーン地区にある国立美術館。18~19世紀に活躍し、イングランド銀行の建築に携わった偉大な建築家として名高い、ジョン・ソーンの邸宅兼スタジオだった建物が、彼の死後以降今も一般公開されている。一見普通のジョージアン様式の建物のように見える外観とは裏腹に、館内に入ってみると、部屋と部屋は迷路のような狭い通路でつながり、ありとあらゆる壁や隙間には、古代の遺物や骨董品で覆い尽くされ、見学するにも苦労するほど。展示物には、彼が手がけた建築の図面や模型のみならず、収集した絵画や骨董品類4万5千点もが収蔵され、その大部分を占める古代エジプト、ギリシャ、ローマの建築物装飾品の中には、大英博物館でさえ購入を諦めたという、古代エジプト王セティ1世の石棺が最も有名。絵画コレクションには、ウィリアム・ホガースによる8点の連作や、ソーンの親友だったというウィリアム・ターナーの絵画など。ソーンは建築を一種の総合芸術に高めることを目指し、天窓、ステンドグラス、鏡を使って建物内に自然光を取り入れ、詩的な空間が演出される館内。赤色の壁が印象的な居間や、ドーム式天井が施された朝食室、隠し扉が施された絵画室。埋葬室に石棺が設置された後、王室メンバーや1000人余りのゲストを迎え、3日3晩パーティーが行われたのだとか。更に2023年の5月からは製図室が200年の時を経て一般公開されている。

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ロンドン北部の広大なハムステッドヒースの西側にある「Hill Garden & Pergola」はロマンチックな秘密の庭園。今年からイギリス指定建造物グレード2にも登録されたこの庭園は、1904年に著名なイギリスの造園家トーマス・モーソンが、実業家ウィリアム・リーバ卿(ユニリーバの創業者)のプライベートガーデンとして設計した、エドワーディアン様式の豪華な庭園で、リーバ卿が亡くなった後、長い年月を経て色褪せ、静寂でロマンチックな風景を留めたまま、現在は地元の自治体が保全管理し一般公開されている。写真撮影や映画のロケーションに使われることもあるという、この庭園のいちばんの魅力はパーゴラ。まるで遺跡のような、煉瓦造りで2階建ての回廊上部に続く250m余りものパーゴラは、石柱と木製の梁で構成され、蔓薔薇、藤、ジャスミンや葡萄が緑のアーチを作り、春から夏にかけ見頃を迎える花が咲き乱れる頃が最も美しく、多くの人が訪れる。更に、パーゴラに隣接して広がるヒル・ガーデンには、睡蓮の池や、景色が一望できる開けた丘があり、訪れた10月中旬には、バルコニーから見下ろす赤や黄色に色づいた木の実や紅葉の秋らしい風景が広がり、人気もまばらで、ゆっくり風景を楽しむことができた。また、丘を下ると壁に囲まれたウォールド・ガーデンや動物園、カフェもあり、一日楽しむことができる。

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ロンドンを象徴する存在で、ダブルデッカーバスやポストボックスに続き、観光客に人気の「赤い電話ボックス」。この誰もがイメージする赤い電話ボックスは、1924年にサー・ジャイルズ・ギルバート・スコットによってデザインされたもので、初代のコンクリート製でグレーのボディーに、赤い扉と窓が付いた地味なモデル「Kiosk 1」に比べ、鋳鉄製の全身真っ赤な「Kiosk 2」は、デザイン制が高くアイコニックなのは一目瞭然。このK2型は、1926年~1935年の9年間にわたり、1700台余りがロンドンに設置されていたが、今ではイギリス全土で残すところ200台程となっているよう。このK2が見られるスポットとして知られるのが、ボックスが一気に5台並んで見られるコベントガーデンのBroad Courtや、K2オリジナルのプロトタイプが今も当時のまま設置されているピカデリーのBurlington House。更に、1935年にSir G.G.スコットが、国王ジョージ5世の即位25周年を記念して設計したK6型は、K2より一回り小さく窓のデザインが異なり、イギリス全土に最も普及したモデルで、ロンドンに設置されているほとんどがこのタイプ。携帯電話の普及により、公衆電話としての役割を無くし、放置されたまま見窄らしい姿を留めているものも多い中、近頃文化的価値が認められ保全する動きが盛んになってきているようで、ミニ図書館、案内所、AEDの設置場所、カフェなど、様々な用途に再利用されつつある。
